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安積親王

この日(閏正月十一日)、安積親王(17)もまた、難波宮に向かわれたが、脚の病のため桜井の頓宮(河内郡桜井郷)から恭仁宮に還られ、その2日後の13日に死去したというのである。

安積は聖武の嫡系ではないが、基王(もといおう)が亡くなった後、立太子は阿倍内親王であったが、唯一の直系皇子であり、皇位継承の候補者でもあった。

そんな安積の急死については、暗殺されたという見方もあり、恭仁宮に留守官として残っていたのが藤原仲麻呂(武智麻呂の二男)と鈴鹿王(長屋王異母弟)であった。

そして二月の動きはあわただしく、まるでクーデターが起こったような騒ぎであるが、その後の恭仁宮の留守官には仲麻呂はおらず、翌天平17・18年には官位を授与している。

06 1042 同月十一日登活道岡集一株松下飲歌二首[同じ月(744)十一日に、活道(いくじ)の岡に登り、一株の松の下に集ひて飲せる歌二首]

06 1042 一松(ひとつまつ)幾代可歴流(いくよかへぬる)吹風乃(ふくかぜの)聲之清者(おとのきよきは)年深香聞(としふかみかも)

06 1042 右一首市原王作

 

天平15年(743年)無位から従五位下に叙せられた市原王は、写一切経所長官を経て玄蕃頭及び備中守に任ぜられる。

 

06 1043 霊剋(たまきはる)壽者不知(いのちはしらず)松之枝(まつがえに)結情者(むすぶこころも)長等曽念(ながらぞおもふ)

06 1043 右一首大伴宿祢家持作

 

06 0988 市原王宴禱父安貴王歌一首[市原王の、宴に父の安貴王を祷(いわい)ける歌一首]

06 0988 春草者(はるくさは)後波落易(のちはうつろふ)巖成(いはほなす)常磐尓座(ときはにいませ)貴吾君(たかきあがきみ)

 

この歌(万988)は、題辞とは別に挿入された用の思われ、それは次の歌(万1007)においても同じである。

06 1007 市原王悲獨子歌一首[市原王の、独子を悲しびたる歌一首]

06 1007 言不問(こととはぬ)木尚妹與兄(きすらいもとせ)有云乎(ありいふを)直獨子尓(ただひとりごに)有之苦者(あるがくるしも

 

20 4496 二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十五首[二月(744)に、式部大輔中臣清麻呂朝臣の宅にして宴せる歌十五首]

20 4496 宇良賣之久(うらめしく)伎美波母安流加夜(きみはあるかや)度乃烏梅能(たのうめの)知利須具流麻埿(ちりすぐるまで)美之米受安利家流(みこしありける)

 

『波』の字には少なくとも、波(ヒ)・ 波(ハ)・ 波(なみ)の3種の読み方が存在する。 『母』の字には少なくとも、母(モ)・ 母(ム)・ 母(ボウ)・ 母(ボ)・ 母(はは)の5種の読み方が存在する。

波(ハ)+ 母(はは)=(は)

『度』の字には少なくとも、度(ド)・ 度(ト)・ 度(ダク)・ 度(タク)・ 度(ズ)・ 度る(わたる)・ 度(めもり)・ 度る(はかる)・ 度(のり)・ 度(たび)の10種の読み方が存在する。

『之』の字には少なくとも、之(シ)・ 之く(ゆく)・ 之(の)・ 之(これ)・ 之の(この)の5種の読み方が存在する。

『米』の字には少なくとも、米(メートル)・ 米(メ)・ 米(マイ)・ 米(ベイ)・ 米(よね)・ 米(こめ)の6種の読み方が存在する。

之(これ)+米(こめ)=(こ)

『受』の字には少なくとも、受(トウ)・ 受(ズ)・ 受(ジュ)・ 受(シュウ)・ 受ける(うける)・ 受かる(うかる)の6種の読み方が存在する。

み‐こ・す【見越す】: 将来のことを推しはかる。今後を見通す。予測する。

 

20 4496 右一首治部少輔大原今城真人

20 4497 美牟等伊波婆(みないはば)伊奈等伊波米也(いなといはめや)宇梅乃波奈(うめのはな)知利須具流麻弖(ちりすぐるまで)伎美我伎麻左奴(きみがきまさぬ )

 

『牟』の字には少なくとも、牟(モ)・ 牟(ム)・ 牟(ボウ)・ 牟る(むさぼる)・ 牟く(なく)の5種の読み方が存在する。

『等』の字には少なくとも、等(トウ)・ 等(タイ)・ 等(ら)・ 等しい(ひとしい)・ 等(など)の5種の読み方が存在する。

牟く(なく)+等(など)=(な)

20 4497 右一首主人中臣清麻呂朝臣

 

20 4498 波之伎余之(はしきよし)家布能安路自波(けふのあるじは)伊蘇麻都能(いそまつの)都祢尓伊麻佐祢(つねにいまさね)伊麻母美流其等 (いまもみるごと)

 

はしき‐やし【▽愛しきやし】 :いとおしい。なつかしい。

『路』の字には少なくとも、路(ロ)・ 路(ラク)・ 路(みち)・ 路(じ)・ 路(くるま)の5種の読み方が存在する。

『自』の字には少なくとも、自(ジ)・ 自(シ)・ 自(りより)・ 自ら(みずから)・ 自ら(おのずから)の5種の読み方が存在する。

路(じ)+自(ジ)=(じ)

 

20 4498 右一首右中辨大伴宿祢家持

20 4499 和我勢故之(わがせこの)可久志伎許散婆(かくしきこさば)安米都知乃(あめつちの)可未乎許比能美(かみをこひのみ)奈我久等曽於毛布(ながひぞおもふ )

 

『久』の字には少なくとも、久(ク)・ 久(キュウ)・ 久しい(ひさしい)の3種の読み方が存在する。

『等』の字には少なくとも、等(トウ)・ 等(タイ)・ 等(ら)・ 等しい(ひとしい)・ 等(など)の5種の読み方が存在する。

久しい(ひさしい)+等しい(ひとしい)=(ひ)

『曽』の字には少なくとも、曽(ゾウ)・ 曽(ゾ)・ 曽(ソウ)・ 曽(ソ)・ 曽す(ます)・ 曽ち(すなわち)・ 曽て(かつて)・ 曽なる(かさなる)の8種の読み方が存在する。

 

20 4499 右一首主人中臣清麻呂朝臣

 

20 4500 宇梅能波奈(うめのはな)香乎加具波之美(かをかぐはしみ)等保家杼母(とほけども)己許呂母之努尓(こころもしのに)伎美乎之曽於毛布(きみこそおもふ)

 

『乎』の字には少なくとも、乎(ゴ)・ 乎(コ)・ 乎(オ)・ 乎(を)・ 乎(や)・ 乎(かな)・ 乎(か)の7種の読み方が存在する。

『之』の字には少なくとも、之(シ)・ 之く(ゆく)・ 之(の)・ 之(これ)・ 之の(この)の5種の読み方が存在する。

乎(コ)+ 之(これ)=(こ)

 

20 4500 右一首治部大輔市原王

20 4501 夜知久佐能(やちくさの)波奈波宇都呂布(はなはうつろふ)等伎波奈流(ときはなる)麻都能左要太乎(まつのさえだを)和礼波牟須婆奈(われはむすばな)

20 4501 右一首右中辨大伴宿祢家持

0 4502 烏梅能波奈(うめのはな)左伎知流波流能(さきちるはるの)奈我伎比乎(ながきひを)美礼杼母安加奴(みれどもあかぬ)伊蘇尓母安流香母 (いそにもあるか)

20 4502 右一首大蔵大輔甘南備伊香真人

20 4503 伎美我伊敝能(きみがへの)伊氣乃之良奈美(いけのしらなみ)伊蘇尓与世(いそによせ)之婆之婆美等母(しばしばみとも)安加無伎弥加毛(あかむきみかも )

 

『我』の字には少なくとも、我(ガ)・ 我(われ)・ 我(わ)の3種の読み方が存在する。 『伊』の字には少なくとも、伊(イ)・ 伊(ただ)・ 伊(これ)・ 伊(かれ)の4種の読み方が存在する。

我(ガ)+伊(かれ)=(が)

 

20 4503 右一首右中辨大伴宿祢家持

20 4504 宇流波之等(うるはしと)阿我毛布伎美波(あがもふきみは)伊也比家尓(いやひけに)伎末勢和我世古(きませわがせこ)多由流日奈之尓(たゆるひなしに)

 

いやひけ‐に【▽弥日▽異に】:日を追っていよいよ。日増しに。

 

20 4504 右一首主人中臣清麻呂朝臣

20 4505 伊蘇能宇良尓(いそのりに)都祢欲比伎須牟(つねよひきすむ)乎之杼里能(をしどりの)乎之伎安我未波(をしきあがみは)伎美我末仁麻尓(きみがまにまに )

 

『能』の字には少なくとも、能(ノウ)・ 能(ナイ)・ 能(ドウ)・ 能(ダイ)・ 能(タイ)・ 能(グ)・ 能(キュウ)・ 能くする(よくする)・ 能く(よく)・ 能き(はたらき)・ 能う(あたう)の11種の読み方が存在する。

『宇』の字には少なくとも、宇(ウ)・ 宇(のき)・ 宇(いえ)の3種の読み方が存在する。 能(ノウ)+宇(のき)=(の)

を-しき 【折敷】:杉やひのきの片木(へぎ)(=薄くはいだ板)で作った角盆、または隅切り盆(=四角形の各隅を切り落とした形の盆)。食器を載せ、また、神への供え物を載せるのに用いる。

 

20 4505 右一首治部少輔大原今城真人

 

20 4506 依興各思高圓離宮處作歌五首[興に依りて各々高円の離宮処を思ひて作れる歌五首]

20 4506 多加麻刀能’たかまとの)努乃宇倍能美也波(のうへのみやは)安礼尓家里(あれにけり)多〃志〃伎美能(たたししきみの)美与等保曽氣婆(みよとほそけば)

 

「努」「怒」「弩」などが、「の」の甲類音を表す万葉仮名とされている。 とほ-そ・く 【遠退く】:遠く離れる。遠ざかる。

 

20 4506 右一首右中辨大伴宿祢家持

20 4507 多加麻刀能(たかまとの)乎能宇倍乃美也波(をのへのみやは)安礼奴等母(あれぬとも)多〃志〃伎美能(たたししきみの)美奈和須礼米也(みなわすれめや)

 

『能』の字には少なくとも、能(ノウ)・ 能(ナイ)・ 能(ドウ)・ 能(ダイ)・ 能(タイ)・ 能(グ)・ 能(キュウ)・ 能くする(よくする)・ 能く(よく)・ 能き(はたらき)・ 能う(あたう)の11種の読み方が存在する。

『宇』の字には少なくとも、宇(ウ)・ 宇(のき)・ 宇(いえ)の3種の読み方が存在する。 能(ノウ)+宇(のき)=(の)

 

20 4507 右一首治部少輔大原今城真人

20 4508 多可麻刀能(たかまとの)努敝波布久受乃(のへはふくずの)須恵都比尓(すゑつひに)知与尓和須礼牟(ちよにわすれむ)和我於保伎美加母(わがおほきみか)

 

はうくず‐の〔はふくず‐〕【×這ふ葛の】:[枕]葛のつるが長く伸び分かれ、末にあうところから、「いや遠長く」「絶えず」「後もあふ」にかかる。

 

20 4508 右一首主人中臣清麻呂朝臣

20 4509 波布久受能(はふくずの)多要受之努波牟(たえずしのはむ)於保吉美乃(おほきみの)賣之思野邊尓波(めししのへには)之米由布倍之母(しめゆふべしも )

20 4509 右一首右中辨大伴宿祢家持

20 4510 於保吉美乃(おほきみの)都藝弖賣須良之(つぎてめすらし)多加麻刀能(たかまとの)努敝美流其等尓(のへみるごとに)祢能未之奈加由 (ねのみしなかゆ )

 

音(ね)を泣(な)・く :声を出して泣く。

 

20 4510 右一首大蔵大輔甘南備伊香真人 

以上が、大中臣 清麻呂(おおなかとみ の きよまろ:702-788)・大原 今城(おおはら の いまき:瀬没年不詳)・市原王(いちはらおう:生没年不詳)・甘南備 伊香(かんなび の いかご:生没年不詳)、そして大伴家持(718-785)らの平宝字二年(758)での十五首だが、これらは安積の會のようにも思える。

03 0475 十六年甲申春二月安積皇子薨之時内舎人大伴宿祢家持作歌六首[十六年(744)甲申。春二月に、安積皇子の薨りましし時に、内舎人大伴宿禰家持の作れる歌六首]

03 0475 挂巻母(かけまくも)綾尓恐之(あやにかしこし)言巻毛(いはまくも)齋忌志伎可物(いまはしきかも)吾王(わがおうの)御子乃命(みこなるみこと)萬代尓(よろづよに)食賜麻思(めしたまはまし)大日本(おほやまと)久邇乃京者(くにのみやこは)打靡(うちなびく)春去奴礼婆(はるさりぬれば)山邊尓波(やまへには)花咲乎為里(はなさきををり)河湍尓波(かはせには)年魚小狭走(あゆこさばしり)弥日異(いやひけに)榮時尓(さかゆるときに)逆言之(およづれの)狂言登加聞(たはこととかも)白細尓(しろたへに)舎人装束而(とねりよそひて)和豆香山(わづかやま)御輿立之而(みこしたたして)久堅乃(ひさかたの)天所知奴礼(あめしらしぬれ)展轉(こいまろび)埿打雖泣(ひづちなけども)将為須便毛奈思 (せむすべもなし)

 

いわまく‐も〔いはまく‐〕【言はまくも】:口に出して言うのも。口にするのも。

『齋』の字には少なくとも、齋(シ)・ 齋(サイ)・ 齋(ものいみ)・ 齋(とき)・ 齋む(つつしむ)・ 齋く(いつく)の6種の読み方が存在する。

『忌』の字には少なくとも、忌(ギ)・ 忌(キ)・ 忌む(いむ)・ 忌まわしい(いまわしい)の4種の読み方が存在する。

齋く(いつく)+ 忌まわしい(いまわしい)=(いまわしい

およずれ‐ごと〔およづれ‐〕【▽妖言】:根拠のない、人を迷わせる言葉やうわさ。

 

03 0476 反歌

03 0476 吾王(わがおうの)天所知牟登(あめしらさむと)不思者(おもはねば)於保尓曽見谿流(おほにぞみける)和豆香蘇麻山 (わづかそまやま)

03 0477 足桧木乃(あしひきの)山左倍光(やまさへひかり)咲花乃(さくはなの)散去如寸(ちりゆくごとき)吾王香聞 (われのおほかも )

03 0477 右三首二月三日作歌

 

03 0478 挂巻毛(かけまくも)文尓恐之(あやにかしこし)吾王(わがおほの)皇子之命(みこのみことは)物乃負能(もののふの)八十伴男乎(やそとものをを)召集聚(めしつどへ)率比賜比(あどもひたまひ)朝獵尓(あさがりに)鹿猪踐起(ししふみおこし)暮獵尓(ゆふがりに)鶉鴙履立(とりふみたてて)大御馬之(おほみまの)口抑駐(くちおさへとめ)御心乎(みこころを)見為明米之(めしあきらめし)活道山(いくぢやま)木立之繁尓(こだちのしげに)咲花毛(さくはなも)移尓家里(うつろひにけり)世間者(よのなかは)如此耳奈良之(かくのみならし)大夫之(ますらをの)心振起(こころふりおき)劔刀(つるぎたち)腰尓取佩(こしにとりはき)梓弓(あづさゆみ)靭取負而(ゆきとりおひて)天地与(あめつちと)弥遠長尓(いやとほながに)萬代尓(よろづよに)如此毛欲得跡(かくしもがもと)憑有之(たのめりし)皇子乃御門乃(みこのみかどの)五月蝿成(さばへなす)驟驂舎人者(さわくとねりは)白栲尓(しろたへに)服取著而(ころもとりきて)常有之(つねありし)咲比振麻比(ゑまひふるまひ )弥日異(いやひけに)更経見者(かはらふみれば)悲呂可聞(かなしきろかも )

03 0479 反歌

03 0479 波之吉可聞(はしきかも)皇子之命乃(みこのみことの)安里我欲比(ありがよひ)見之活道乃(めししいくぢの)路波荒尓鷄里(ろはあれにけり)

03 0480 大伴之(おほともの)名負靭帶而(なにおふしたに)萬代尓(よろづよに)憑之心(たのみしこころ)何所可将寄(いづくかよせむ)

 

『靭』の字には少なくとも、靭(ジン)・ 靭やか(しなやか)の2種の読み方が存在する。 『帶』の字には少なくとも、帶(タイ)・ 帶(おび)・ 帶びる(おびる)の3種の読み方が存在する。

『而』の字には少なくとも、而(ノウ)・ 而(ニ)・ 而(ドウ)・ 而(ジ)・ 而(なんじ)・ 而れども(しかれども)・ 而るに(しかるに)・ 而も(しかも)・ 而して(しかして)の9種の読み方が存在する。

03 0480 右三首三月廿四日作歌

二月も月末には落ち着きを取り戻したかのようになり、三月には皇都として難波宮が機能していたはずであった。