おほさざきのみことⅡ 応神と仁徳
美豆多麻流(みづたまる)余佐美能伊氣能(よさみのいけの)韋具比宇知賀(ゐぐひうちが)佐斯祁流斯良邇(さしけるしらに)奴那波久理(ぬなはくり) 波閇祁久斯良邇(はへけくしらに) 和賀許許呂志叙(わがこころしぞ)伊夜袁許邇斯弖(いやをこにして)伊麻叙久夜斯岐(いまぞくやしき)『古事記歌謡44』
瀰豆多摩蘆(みずたまり)豫佐瀰能伊戒珥(よさみのいかに)奴那波區利(ぬなはくり)破陪鶏區辭羅珥(はべけくしらに)委遇比菟區(ゐぐひつく)伽破摩多曳能(かわまたえの)比辭餓羅能(ひしがらの)佐辭鶏區辭羅珥(さしけくしらに) 阿餓許居呂辭(あがこころし)伊夜于古珥辭氐(いやうこにして)『日本書紀歌謡36』
《紀において》
『瀰』の字には少なくとも、瀰(メイ)・ 瀰(ミ)・ 瀰(ベイ)・ 瀰(ビ)・ 瀰(ナイ)・ 瀰(デイ)・ 瀰い(ひろい)・ 瀰る(はびこる)の8種の読み方が存在する。
【豆】[音]ズ(ヅ)(呉)トウ(漢)[訓]まめ
【多】[音]タ(呉)(漢)[訓]おおい
【摩】[音]マ(呉)[訓]する・さする・こする
【麻】[音]マ(慣)[訓]あさ・お
『蘆』の字には少なくとも、蘆(ロ)・ 蘆(リョ)・ 蘆(ラ)・ 蘆(よし)・ 蘆(あし)の5種の読み方が存在する。
【予〔豫〕】[音]ヨ(呉)(漢)[訓]あらかじめ・かねて・われ
【佐】[音]サ(呉)(漢)[訓]たすける・すけ
『能』の字には少なくとも、能(ノウ)・ 能(ナイ)・ 能(ドウ)・ 能(ダイ)・ 能(タイ)・ 能(グ)・ 能(キュウ)・ 能くする(よくする)・ 能く(よく)・ 能き(はたらき)・ 能う(あたう)の11種の読み方が存在する。
【伊】[音]イ(呉)(漢)
【戒】[音]カイ(漢)[訓]いましめる
『珥』の字には少なくとも、珥(ニョウ)・ 珥(ニ)・ 珥(ジョウ)・ 珥(ジ)・ 珥(みみだま)・ 珥(むさし)はさむの6種の読み方が存在する。
『奴』の字には少なくとも、奴(ヌ)・ 奴(ド)・ 奴(やつ)・ 奴(やっこ)の4種の読み方が存在する。
『那』の字には少なくとも、那(ナ)・ 那(ダ)・ 那ぞ(なんぞ)・ 那(なに)・ 那ぞ(いかんぞ)の5種の読み方が存在する。
【波】[音]ハ(呉)(漢)[訓]なみ
『區』の字には少なくとも、區(コウ)・ 區(ク)・ 區(キュウ)・ 區(オウ)・ 區(オ)の5種の読み方が存在する。
【利】[音]リ(呉)(漢)[訓]きく・とし
【破】[音]ハ(呉)(漢)[訓]やぶる・やぶれる・われる
『陪』の字には少なくとも、陪(ベ)・ 陪(バイ)・ 陪(ハイ)・ 陪う(したがう)の4種の読み方が存在する。
【鶏〔鷄〕】[音]ケイ(呉)(漢)[訓]にわとり・とり・かけ
『辭』の字には少なくとも、辭(ジ)・ 辭(シ)・ 辭める(やめる)・ 辭る(ことわる)・ 辭(ことば)の5種の読み方が存在する。
【羅】[音]ラ(呉)(漢)[訓]うすぎぬ
【委】[音]イ(ヰ)(呉)(漢)[訓]ゆだねる・まかせる・くわしい
『遇』の字には少なくとも、遇(グウ)・ 遇(グ)・ 遇(ギョウ)・ 遇す(もてなす)・ 遇(たまたま)・ 遇う(あう)の6種の読み方が存在する。
【比】[音]ヒ(呉)(漢)[訓]くらべる・ころ・たぐい
【兎】[音]ト(漢)[訓]うさぎ:月のこと。「烏兎(うと)・玉兎」
【伽】[音]ガ(呉)カ(漢)キャ(慣)[訓]とぎ
【曳】[音]エイ(呉)(漢)[訓]ひく 【餓】[音]ガ(呉)(漢)[訓]うえる・かつえる 【阿】[音]ア(呉)(漢)[訓]くま・おもねる・お
『許』の字には少なくとも、許(コ)・ 許(ク)・ 許(キョ)・ 許す(ゆるす)・ 許(もと)・ 許り(ばかり)の6種の読み方が存在する。
『居』の字には少なくとも、居(コ)・ 居(キョ)・ 居(キ)・ 居る(おる)・ 居く(おく)・ 居る(いる)の6種の読み方が存在する。
『呂』の字には少なくとも、呂(ロ)・ 呂(リョ)の2種の読み方が存在する。
【夜】[音]ヤ(呉)(漢)[訓]よ・よる
『于』の字には少なくとも、于(コ)・ 于(ク)・ 于(キョ)・ 于(ウ)・ 于く(ゆく)・ 于に(ここに)・ 于(ああ)の7種の読み方が存在する。
【古】[音]コ(漢)[訓]ふるい・ふるす・いにしえ
『氐』[音][国]テイ・ タイ・ シ・ チ[訓]ふもと
「古事記歌謡44は、このままだと、5・7・6・7・5・7・7・7・7の9句となっており、日本書紀歌謡36は、5・7・5・7・5・6・5・7・6・7の10句になっている」
「つまり、5・7調に調整してから、問題を解く必要がある」
『韋』の字には少なくとも、韋(カイ)・ 韋(エ)・ 韋(イ)・ 韋(なめしがわ)の4種の読み方が存在する。
(なめしがわ):毛と脂肪を取り除いてやわらかくした動物のかわ。
『具』の字には少なくとも、具(グ)・ 具(ク)・ 具(つま)・ 具に(つぶさに)・ 具わる(そなわる)・ 具える(そなえる)の6種の読み方が存在する。
『比』の字には少なくとも、比(ビチ)・ 比(ビ)・ 比(ヒツ)・ 比(ヒ)・ 比ぶ(ならぶ)・ 比(たぐい)・ 比(ころ)・ 比べる(くらべる)の8種の読み方が存在する。
『宇』の字には少なくとも、宇(ウ)・ 宇(のき)・ 宇(いえ)の3種の読み方が存在する。 『知』の字には少なくとも、知(チ)・ 知る(しる)・ 知らせる(しらせる)の3種の読み方が存在する。
『賀』の字には少なくとも、賀(ガ)・ 賀ぶ(よろこぶ)の2種の読み方が存在する。
が 【賀】:長寿の祝い。賀の祝い。
『志』の字には少なくとも、志(シ)・ 志す(しるす)・ 志(こころざし)・ 志す(こころざす)の4種の読み方が存在する。
『叙』の字には少なくとも、叙(ジョ)・ 叙(ショ)・ 叙べる(のべる)の3種の読み方が存在する。
美豆多麻流 余佐美能伊氣能 韋(なめしがわ) 具比(つぶさにならべ) 宇知賀(うちのがは) 佐斯祁流斯良邇 奴那波久理 波閇祁久斯良邇 和賀許許呂 志叙(こころざしのぶ) 伊夜袁許邇斯弖 伊麻叙久夜斯岐
「(わがこころ)(こころざしのぶ)(いやをこにして)(いまぞくやしき)ということは、5・7・7・7になりますが」
「【志叙】(しじ)と聞こえたように思ったが、阿礼のひとりごとだったかもしれない」
「ということは、(わがこころ いやをこにして いましくやしき)というわけですか」
いま-し 【今し】:今まさに。ちょうど今。
一方の日本書紀歌謡36を5・7調にすると、
瀰豆多摩蘆 豫佐瀰能伊戒珥 奴那波區利 破陪鶏區辭羅珥 委遇比菟區 伽破摩多曳能(かはまたえいの) 比辭餓羅能 佐辭鶏區辭羅珥 阿餓許居呂 辭(ことばなりしは) 伊夜于古珥辭氐
『伽』の字には少なくとも、伽(キャ)・ 伽(ガ)・ 伽(カ)・ 伽(とぎ)の4種の読み方が存在する。
『破』の字には少なくとも、破(ヒ)・ 破(ハ)・ 破れる(われる)・ 破れる(やぶれる)・ 破る(やぶる)の5種の読み方が存在する。
『摩』の字には少なくとも、摩(ミ)・ 摩(マ)・ 摩(ビ)・ 摩(バ)・ 摩る(する)・ 摩る(さする)・ 摩る(こする)の7種の読み方が存在する。
『多』の字には少なくとも、多(タ)・ 多い(おおい)の2種の読み方が存在する。
『曳』の字には少なくとも、曳(エイ)・ 曳く(ひく)の2種の読み方が存在する。
『能』の字には少なくとも、能(ノウ)・ 能(ナイ)・ 能(ドウ)・ 能(ダイ)・ 能(タイ)・ 能(グ)・ 能(キュウ)・ 能くする(よくする)・ 能く(よく)・ 能き(はたらき)・ 能う(あたう)の11種の読み方が存在する。
かわまた‐え【川股江】:川の流れの分岐点の入江。
い:終助詞《接続》種々の語に付く。〔念押し〕…よ。
『辭』の字には少なくとも、辭(ジ)・ 辭(シ)・ 辭める(やめる)・ 辭る(ことわる)・ 辭(ことば)の5種の読み方が存在する。
「大鷀鵪尊は御歌を賜わって、髪長媛を賜わることを知り、大いに喜び返し歌をされたのが、日本書紀歌謡36のこの歌なのだが、すでに同衾(どうきん)しており、仲睦まじかったことから、この【辭】が入り、【伊夜于古珥辭氐】で締めたのだ」
「ただここで、袁許(をこ)と于古(うこ)が気になるのですが、特に事記において、天皇自ら、“烏滸がましくも 悔しきことだ”と詠うのでしょうか?」
おこ〔をこ〕【痴/烏滸/尾籠】:愚かなこと。
「古事記では、武内宿禰(たけしうちのすくね)の大臣が、天皇のお許しを願うと、天皇はただちに髪長比売をその御子にお与えになったとあり、(をこ)行為ではないのに、愚かで悔しいとしているのは、確かに当たらない」
「立派な行為であるのに、それでは俗物化していますよね」
「此処は、(依怙にし)てではないだろうか?」
え‐こ【依怙】: 一方だけをひいきにすること。
「なるほど、ひいきにしたが、心のうちは残念というわけですか、すると書記の方は?」
「(此処にして)だと思うのだが・・・」
「すなわち太子は、“言葉にすれば、この点に関して”というわけなら、事前のことを考えれば、納得できますね」
こ-こ 【此処】:このこと。この点。 「これで、【志叙】を省けば古事記も書紀も11句になる」
美豆多麻流[瀰豆多摩蘆] 余佐美能伊氣能[豫佐瀰能伊戒珥] 韋[奴那波區利]具比[破陪鶏區辭羅珥] 宇知賀[委遇比菟區] 佐斯祁流斯良邇[伽破摩多曳能] 奴那波久理[比辭餓羅能] 波閇祁久斯良邇[佐辭鶏區辭羅珥] 和賀許許呂[阿餓許居呂] 伊夜袁許邇斯弖[辭] 伊麻叙久夜斯岐[伊夜于古珥辭氐]
「句数は合致しますけれど、かなりズレた感じですね」
「袁許(えこ)と于古(ここ)を別にすれば、(ぬなわくり)だな」
ぬなわ‐くり〔ぬなは‐〕:ジュンサイの古名。
「古事記に、【韋】がありますが、どうして書記にはないのでしょうか?」
「逆に、書紀に【比辭餓羅(ひしがら)】があって、古事記にはない」
ひし‐がら【菱殻】: 菱の実の殻。
「つまり、(よさみのいけ)に、古事記では(なめしがわ)と(ぬなわくり)があり、書紀では、(ぬなわくり)と(ひしがら)を対応させているわけですね」
「この物産に、さほどの意味があるのかどうかわからないのだが、『古事記』の応神時代は狩猟争乱に明け暮れていたのが、『日本書紀』ではもっとはっきりと、農耕平定への太子時代を打ち出そうとしているのかもしれない」
【参考】
は・ふ 【延ふ】:張り渡す。
け‐く【結句】:〔副〕 (「けっく(結句)」の変化した語) かえって。むしろ。また、あげくのはて。結局。
いや:感動詞①やあ。いやはや。▽驚いたときや、嘆息したときに発する語。
②やあ。▽気がついて思い出したときに発する語。